薬害を防止するための医薬品安全性関連情報

非加熱血液凝固因子製剤によるエイズ、ヒト乾燥硬膜によるヤコブ病など、数々の薬害事件を経て、遅まきながら日本でも厚生労働省による医薬品の監視体制が強化されてきました。医薬品の適正使用を万全にするために、同省が重視するのが「医薬品等安全性関連情報」の発信です。

製薬メーカーも報告

医薬品の安全性を確保するため、その開発段階における治験を厳格に行い信頼性の高いデータを収集することはもちろん大切ですが、治験では症例数が限られます。そこで、過去の薬害の事例を教訓として、医薬品が市場に出て実際に患者さんに投与されてから行う追跡調査(市販後調査)も重要視されるようになり、予期せぬ副作用があった場合には直ちに報告されるシステムが構築されています。

全ての医療機関と薬局は、医薬品の副作用などに関する情報を厚生労働省に直接報告することが義務付けられており、蓄積されたデータは「医薬品・医療器具等安全性情報」として、厚生労働省のホームページに掲載されることになります。

厚生労働省に寄せられる症例には、①副作用として疑われるものの、実際に該当する症例が臨床現場からは寄せられていない「未知症例」として扱われ、医師や薬剤に注意を呼びかけるもの、②副作用の疑いが報告され、使用上注意すべき内容が変わった「既知症例」として詳細な情報が提供されるもの、③未知と既知の両方をまとめ、医薬品ごとの副作用と年度別の発症数を告知する「報告副作用一覧」があります。

医療現場だけではなく、製薬企業も自社が取り扱っている医薬品の情報を収集し、「緊急安全情報(通称:ドクターレター)」として厚生労働省に報告を行い、同省および医薬品医療機器総合機構から速報としてネットで配信されたり、医療関係者に書面で配布されます。

そのほか、注射用なのか内服用なのか紛らわしいアンプル剤など、容器や剤型で投薬を間違いやすい薬剤の情報、名称が似ている薬(Cs拮抗薬のペルジピンと狭心症薬のペルサンチン、強心薬のボスミンと抗菌薬のホスミシンなど多数)など、医療事故を起こす可能性があるものについては「医薬品に関連する医療事故防止対策」というページで注意喚起を行っています。

FAQ:看護師の配置基準で決まる入院基本料

旅行や出張の際に利用する機会の多いホテルは、その立地条件やサービス内容、ブランドなどによって宿泊料金は大きく異なりますが、私たちが大きな病気や怪我で医療機関に入院したときに支払う入院基本料にも一定ではなく、大きな差があります。それでは何を基準に病院の入院基本料金は決定されるのでしょうか?

看護師の多い病院に手厚い制度

病院の場合は、入院している患者さんに対して看護師が何人配置されているかによって、差が付くようになっています。一般病院の入院基本料は15:1~7:1まで4段階が定められており、入院患者さん7人に対し看護師を1人という7:1看護がもっとも多くの基本料(1,555点/日 1点=10円)となっています。

7:1入院基本料を算定するためには、当該病院の職員の7割が看護師であること、病棟の平均入院日数が19日以内であること、職員一人あたりの月平均の夜勤時間が72時間以下である、といった基準をパスしえいる必要があります。看護師だけ基準を満たしていても、医師の配置基準を満たしていない病院は減額されます。

病院の経営という側面からこの制度を見てみると、10:1と7:1では看護配置は1段階しか変わらないもの100床差でざっと1億円も収入が違うといわれています。そのためより高い看護基準を満たす体制を整えることは、死活問題にもなります。また患者さんから見ても、看護師が多いということは患者さん1人をケアできる時間も増える、室の高い医療を受けることができるなどのメリットがあります。

しかし、夜勤の負担をはじめとした苛酷な勤務環境を原因に離職する看護師が後を絶たないため、医療界は慢性的な人材不足になっています。2006年の診療報酬改定で、新たに7対1入院基本料が導入された際には、経営体力に余裕のある大学病院や都市部の大病院が、新基準をクリアし増収につなげようと、看護師の採用へ一早く動いたため、中小病院はまずます人材が不足することになりました。

病院の経営を安定化させ、質の高い医療を継続的に提供するためには、育児休暇や短時間正職員制度、夜勤の軽減、時短勤務などで看護師のワークライフバランスを実現できる働きやすい病院の体制を整備することが急務となります。看護師の離職率は、政令指定都市、東京23区、小規模、医療法人の病院で高くなっており、逆に短時間正職員制度や新卒スタッフの教育体制が充実している病院では利殖が少ない傾向となっています。

少子化による労働人口の減少が加速することから、国は2008年から東南アジア諸国と経済連携協定を締結し、看護師と介護福祉士候補の受け入れをはじめましたが、言葉の壁を乗り越えて、短期間のうちに国家試験に合格する必要があるため、看護師不足の抜本的な解決にはなっていません。そもそも、厚生労働省は医療現場の労働問題に長年目を向けてこないで放置しておいて、切羽詰ったら海外の人材に頼るという姿勢に問題があり、大きな批判が寄せられています。

改正薬事法でドラッグストアの競争が激化

2006年、薬事法が制定された1960年以来、およそ半世紀ぶりに改定が行われました。この改訂の目玉は、従来のドラッグスタに加えて、コンビニ等でも登録販売者と呼ばれる医薬専門家を置けば、第一類を除く一般用医薬品を販売することが可能になったことです。

一般用医薬品の9割が扱えます

国家予算のなかで医療費が占める割合は年々増加しており、今日では約半分にも匹敵しており、その抑制のため政府は様々な政策を実施しています。その中の一つが、今回の規制緩和です。安全性の高い医薬品ならドラッグストア以外でも販売ができるようにし、国民のセルフメディケーションを促進する形で、医療費を圧縮しようというわけです。

改正薬事法で新設されたのが、薬剤師に代わる登録販売者です。コンビニやスーパーは、その高い人件費がネックとなる薬剤師を配置しなくても、登録販売者がいれば、一般用医薬品も販売できるのです。ドラッグストアは、市場の拡大が期待できる半面、独占権を失うことにもなるので、損失面の方が大きいでしょう。

改正薬事法では、一般用医薬品を副作用のリスクが高い順に第一類から第三類に分類しており、第一類を販売できるのは従来どおり薬剤師に限っています。登録販売者を置くコンビニ等はそれ以外の第二・第三類の一般医薬品を販売することになります。

従来、コンビニとスーパー、ドラッグストアは主力商品が異なるため、住み分けができていました。しかし、今回の改訂でその垣根は取り払われました。どこでも一般用医薬品が替えることになれば、ドラッグストアにとっては大きな痛手です。そこで、マツモト・キヨシグループやイオン・ウエルシア・ストアーズグループを中心に、ドラッグストア同士のメガ再編が模索されています。

医薬品流通業界の再編が加速

今日の医薬品業界では、製薬企業やドラッグストアの再編が加速していますが、最も再編が行われているのが医薬品卸業界です。日本医薬品卸業連合の調べによると、1992年に331社あった会社は、2006年には128社まで減少しました。

薬価引き下げが大きな契機に

そして、実質的に全国展開する4グループに収斂され、地方で存在感を示すとともに誰もが認める医薬品卸は10社程度しかありません。ここまで再編が進んだ理由は、1991年に医薬品流通のしくみが大きく変わったことが景気となり、90年代後半の薬価大幅引き下げで加速しました。

それまでの医薬品流通は、製薬企業が医薬品卸を系列化し、卸は製薬企業の指示のもと医療機関に医薬品を販売していました。たとえ卸が赤字で販売しても、後に製薬企業が補填する値引き保障制度が敷かれていたのです。

しかし、製薬企業が独占禁止法違反を起こすなど不透明な流通が各方面から非難を浴びたのを受け、1991年に建値(仕切価)制に移行し、価格交渉権は医薬品卸がもつことになったのです。その結果、卸同士の価格競争、医療機関の値引き圧力、薬価を下げられたくない製薬企業が仕切価を高く設定するなどして、医薬品卸の収益は急速に悪化していきました。

危機感を募らせた卸各社は、生き残りをかけ、規模拡大を目指しました。業界再編のさきがけとなったのは、スズケンと秋山愛生館の合併でした。業界初といっていい、この大型再編はライバル企業を震撼させました。

2000年には三星堂とクラヤ薬品、東京医薬品の3社が合併し、現在のメディセオ・パルタックホールディングスが誕生しました。過去最大級の合併は、医薬品卸が1兆円規模の超大型卸の道を歩む嚆矢となったのです。